福永 宏隆
秋田大学医学部附属病院 初期研修医2年目

研修概要

John A. Burns School of Medicine (JABSOM)で行われている、SimTikiシミュレーションセンターの研修に参加してきました。

JABSOMはハワイ州知事John A. Burnsの尽力によって1965年設立された、ハワイ大学所属の医学教育施設です。ALOHA(Attaining Lasting Optimal Health for All:全ての人に最大で最長の健康を)の概念のもと、ヘルスケア専門職の教育、高品質のヘルスケアの提供、他領域の協働、研究およびその成果の臨床への応用などに力を入れています。その活動の一環として行っているシミュレーション教育において、JABSOM SimTikiシミュレーションセンターは全米10か所の認定施設のうちの1つとして、年間3000人以上の研修生を受け入れています。

今回の日程では秋田、長野、広島、熊本の4か所から、計15名の研修医が参加し、2日間の日程でシミュレーション研修を受けました。

 John A. Burns州知事

研修内容と各内容の感想

1日目:

集中治療医学がご専門のBenjamin W. Berg先生に、医学教育におけるシミュレーションの位置づけについて講義していただきました。シミュレーションにはエコーや採血など手技の練習だけでなく、シナリオを使った緊急時のチームワークの練習などもあること、振り返り反省してディスカッションできるため効果的に学習できること、現場研修だけでは遭遇しにくい稀な状況も本格的に疑似体験できること、失敗可能なことなど、たくさんの教育上のメリットを持っていることがわかりました。そして、アメリカではシミュレーション教育は効果的な教育を目指す以上に、患者安全を守るという要請を受けて開発されてきたのだということも知りました。日本では、手術中に患者に持続点滴注射しておくべき薬剤のルートの三方活栓を指導医がわざと止め、研修医がそれにちゃんと気づいて直せるかどうか試すという大病院の研修の話も聞いたことがありますが、もし事実ならば、そのような教育で患者の安全が脅かされることを、シミュレーション教育に置き換えることによって防ぐことができます。

午後の前半は、Texas州で勤務されている佐賀医大出身の集中治療専門の先生に、アメリカのレジデント制度と医療制度について講義していただきました。アメリカで将来勤務することを考えている研修医にとっては、アメリカで働くために必要な手続き、受けるべき試験、必要な時間などがよくわかったと思います。

午後の後半は、実際にシミュレーションルームに行き、夜の病棟オンコールで呼ばれたときの対応のシミュレーションを行いました。内容を知ってしまうと次年度以降の受講者の学習にならなくなってしまうため、具体的な状況はここには書けないそうです。しかし、急変するときの変化まで再現できるようなマネキン(聴診音や触知する脈拍の性状などが変化する)やバイタルモニタ(急変時に数値を変化させられる)を使用して、かなりリアリティの高い状況を疑似体験することができました。さらに各ケースにつき1人ファシリテーターの方がついていて、シミュレーションで行った行動や思考についての振り返りに付き合ってくださったりフィードバックをくださったりしました。受講される方は、事前にACLSなどのプロトコルを薬剤投与量まで含めて学習しておくとよいと思います。

講義室 Night on Call シミュレーション

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2日目:

午前は小児での救急対応のシミュレーションを行いました。小児の救急対応で確認すべき点を1つずつ教わり、シミュレーションで実際に確認できるか実践してみるということをやりました。小児は年齢によって体重が様々で薬剤投与量も違うので、迅速に投与量を決定するためのテープを使いました。また、バイタルの正常値が成人と異なるのでそれらも確認しながらシミュレーションを行いました。昨日と同様にファシリテーターが適切に振り返りを誘導してくださったので、とても学習しやすかったです。

各酸素投与装置と薬剤投与量決定テープ 小児救急の講座をしてくださったJannet Lee先生(左) 小児救急のシミュレーション

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また、並行して、腹腔鏡操作のシミュレーションも体験することができました。こちらは各受講者でタイムを競い、上位者に景品が出るという楽しいものでした。

午後はCrisis Team Trainingのシミュレーションを行いました。危機的状況のシナリオに対するチームでの対応シミュレーションをビデオに録画し、それを振り返りながら反省点を改善していく形式で行われました。実際に撮られるのが恥ずかしく、また英語での対応は非常に難しかったです(無理な場合は日本語も可でした)が、反省すべき点をまざまざと突きつけられるという点ではいい勉強になったと思います。

腹腔鏡手技のシミュレーション Crisis Team Traning

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3日目:

午前はDMAT siteの見学に行ってきました。災害時の医療供給をコーディネートする場となる施設で、セキュリティ上住所非公開となっており、タクシーの運転手に目的地を伝えるのに苦労しました。災害時に備え、ハワイの各島での医療資源の要支援状態が一目でわかるようにモニタリングされており、有限な医療物資をどの地域に優先して送るべきかを適切に決定できるような体制が敷かれていました。各災害の種類(台風から北朝鮮の核攻撃まで)を甚大さと可能性で2元的にプロットし、その位置づけに応じて対策が練られているとのことでした。実際の物資の貯蔵庫内も案内してもらいました。

DMATの説明 倉庫内

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午後はShriners小児病院を見学しました。Shrinersグループをはじめとする有志による出資によって、対象となる患児が医療費無料で治療を受けられるという、やや特殊な環境の病院でした。対象となる疾患は小児の整形外科的疾患が主でした。病院内には、車いす生活の子どもも遊べるようなプールや休憩・プレイスペース、開放的な面談・待合スペース、入院病棟があり、それぞれ案内してもらいました。たまたまなのか、外来・入院患者ともかなり少ない様子でした。

休憩・プレイスペース hiners小児病院

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自由時間の活動

主に自由時間は夕方と早朝のみでしたが、その時間を惜しむように観光を楽しんできました。どれくらい楽しんだかについては、写真の掲載だけで十分伝えられるかと思います。

2晩も通った、甲殻類を手で喰らうお店 天気はずっと良好でした(泳ぎました)

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全体を通じての感想

ハワイ大学でのシミュレーション教育研修を通じて行われている研修内容がアメリカの中でも先進的なものであるということを現地の先生からも教えていただき、さらに実際に研修するという貴重な経験をすることができました。そしてその中で、秋田大学でこれまで受けてきた様々なシミュレーショントレーニングも、今回の研修内容に負けず劣らず先進的な取り組みであったのだなと、振り返る形で実感することができました。秋田大学の先生方、そしてシミュレーション研修の準備をいつもしてくださっている総合臨床教育センターのスタッフの方々に対して、今まで以上の感謝が湧いてくるようになりました。これから受けるシミュレーション教育に対しても、その意義をより大きな枠組み(個人の手技の向上だけでなく、より確実な患者安全のためという枠組み)の中で捉えながら受講し、さらには将来的な後進の育成にも活用することができそうです。

本研修に参加させていただき、本当にありがとうございました。

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●2018年ハワイ研修”SimPLE” 研修報告①はこちら

●2018年ハワイ研修”SimPLE” 研修報告③はこちら

●2018年ハワイ研修”SimPLE” 研修報告④はこちら