SimPLE 参加報告書  October31-November1 2022  

秋田大学医学部初期臨床研修医2年目 髙橋 勝大

 

毎年定期的に開催されていたUniversity of Hawaiiでのシミュレーショントレーニングコースが、今年3年ぶりに開催されるとのこと。英語スキルの向上、海外での臨床・基礎研究に興味がある私にとってこの機会は逃せないと考え参加に至った。

トレーニングコース自体は2日間というかなり限られた期間であったが有意義であった。自分の意見を英語で周りに伝えざるを得ない環境、更にそれに医学の専門性が伴わなければならないため国内ではなかなか体験できないことだった。学生時代COVID19により留学が中止になった苦い経験がある。吸収できることはすべて吸収し、そして楽しもうと思った。

一番に感じたことは日本とアメリカでのシミュレーション教育の違いについてだ。私の研修施設の秋田大学付属病院にはシミュレーション教育センターという大規模な施設が併設してある。そのため比較的シミュレーショントレーニングを経験する機会が多かったと感じる。しかしながら今回のとあるセッションのように臨床症例に対してチームで本格的なシミュレーショントレーニングを行うというのはあまり経験がない。日本では個人の手技技術や知識の向上のためのトレーニングが多かった印象だ。

このチームトレーニングのセッションでは、臨床現場で機能するチームになるのがいかに難しいかを実感した。セッションの具体的な内容を伝えるのは禁止されているが、症例に対し瞬時にチームを結成・役割分担をしてチームとして行動する必要がある。ファーストタッチ数十秒後にはその場全員の頭に鑑別疾患が浮かんでいる。そして結果それが正しいのに、なぜか最短距離で適治療介入まで進まない。いかにチーム内のコミュニケーションと個々の役割が大事であるかを痛感した。様々な症例を重ねて、フィードバックを行うたびに適切な治療介入に至るまでの正確な過程と速さが改善していった。

気管挿管困難症例へのシミュレーターを用いたトレーニングや、その他手技のトレーニングなどもあったがそれは日本でのトレーニングと大きく変わらない。チームトレーニングが私にとっての一番の学びとなった。

行間を読む能力に長けているが、自己主張・コミュニケーションが苦手と言われる日本人には一番必要なトレーニングなのではないかと感じた。

 

アメリカのレジデント研修と医学教育についての座学もあった。アメリカでは病院教育体制がしっかりしていることを国民に証明できなければ病院の信頼が下がり、経営が成り立たなくなる、それ故アメリカは日本が重要視し始めるずっと以前から医学教育に力を入れていたとのお話があった。これには深く納得した。日本では患者が漫然近くの病院を受診することが多々ある。しかし一方でアメリカでは病院は常に社会から評価される対象となっている。大学や病院の教育体制を評価する強力な第三者機関も存在しているとのことだった。そのため医学教育は疎かにできないし発展してきた。指導者に対する教育体制もシステマティックでしっかりとしている。

アメリカと日本の研修医・レジデントに対する教育の違いは国内にいても聞こえてきたが、これほど違いがあるのかと正直驚いてしまった。以前、アメリカのとある大学で臨床教授をされている日本人の先生の講演会に参加したことがある。その教授の話では「レジデントの能力はアメリカの方が高いと思う。専門に進んだ後の数年の臨床経験でやっと肩が並ぶ。」という発現を思い出した。その意味がわかった。となるとレジデントの段階で差がついていたら、現状の日本の教育体制のままでは医師のジェネラリストとしての能力は、個人で努力しない限り劣っているままになってしまうなと感じた。

様々な新しい刺激を受けて、いろいろ考えて、英語脳もフル回転させて、2日目終了時にはかなりの疲労に襲われた。

ハンバーガーやガーリックシュリンプなど体に悪いものをたくさん食べて、種類が豊富なビールを沢山飲んで内省した。やっぱり英語で会話するのは楽しいし、臨床・研究で国際レベルの医療者になるには英語力は必須だなと感じた。さらに日常診療でも常に臨床医としての高みを目指すことを意識しなければ置いていかれてしまうのだと感じた。

今まではぼんやりと理想の医師像が自分のなかにあって、それを実現するためにやらなければならないことがぼんやりと見えていて、といった感じだった。しかし今回の経験を通じてそれらがより明確になった。COVID19が完全には終息しない中、このような貴重な機会をいただけたのはかなり恵まれている。この経験を忘れずに高みを目指して行こうと思った。

この度ハワイ大学、秋田大学、あきた医師総合支援センターをはじめ、本研修を支援してくださった方々に深く感謝しております。実に有意義なものとなりました。ありがとうございました。

その他の参加者の報告書は、以下リンクからご覧ください。

”SimPLE”2022 研修報告①(五十嵐陽美先生)

”SimPLE”2022 研修報告②(五十嵐光汰先生)

”SimPLE”2022 研修報告③(土田英臣先生)